聞き飽きた”ベジタリアン”のリアクション
岡元 ゆり、38歳、は肉を一切食べない女性だという。
ベジタリアンなのかと訪ねると、やっぱりそう来たかと、飽き飽きしたかのような表情を見せた後、こう話して行った。
ゆり:「肉が嫌いと言うと、ベジタリアンなのか、という返答を受けるのは毎度のことである。100人中100人とまでは行かないけど、殆どがベジタリアン・・・。正直他に何か他のリアクション無いのって呆れるばっかりである。」
私は、ゆりが好きなお決まりのリアクションで失礼と謝ると、イエイエと、今度は自分こそ言い過ぎたと苦笑いして見せてくれた。
私はゆりの表情が緩んだのを合図に100人中100人までの完全ではない部分が気になっていた。
そこで、その少数派のリアクションについて伺ってみることにした。
ホントなのに信じて貰えない場合もある
ゆり:「信じて貰え無いなんてこともあった。」
私には意外な答えだったので、へえっという顔をすると、ゆりは詳しく説明すると言って話を続けて行った。
ゆり:「これまで1人2ではなく、4,5人に言われた事がある。」
奇妙なことに、それらの疑ってくる人物たちは、共通してダイエットをしてるからなんじゃないかと言うのだ。
中身まで全く一緒で、彼らとしては、肉みたいな美味しい食べ物を嫌いなんてあり得ない、だから私に至っても、ダイエットが理由で、食べないようにしているだけなんじゃないかと結論付けてしまうようだ。
私は心の底から肉が嫌い、だから嫌い、嫌いだって言ってるのだから、素直に信じて欲しいのである。
大嫌いな肉を嫌いであることを認めて貰えないなんて、とても悔しいではないか。
私には、保育園の時、既に肉が嫌いだった記憶がある。
つまり私にとって肉は生まれた時から食べ物でも何でもない存在と言っても過言ではない。
肉が嫌いという真実を言ったのに「嘘でしょ」「信じられない」と言われると嘘つき呼ばわれされているみたいで、辛く悲しい気分にもなる。
これならまだ「ベジタリアン」のリアクションの方がうんとマシではある。
肉食なんてあり得ない
肉を食べない女性と聞けば、きっと多くの人は、姿は華奢で性格は物腰の柔らかいいう人物像を描くのではないかと私は思うのである。
まさに、ゆりは、その人物像そのものと言っても過言では無かった。
まずゆりの体格はかなりか細くて、毎日きちんと食べているのかと思わされる位である。
そしてこれまで、かなりか細い声で受け答えをしてくれていた。だが、私がこれまで肉嫌いを、克服しようとした事があるかと尋ねると、途端に態度が大きく変わったので驚いた。
ゆり:「一度もない。あるわけがないのである。そもそも私には肉を食べる必要性を全く感じないのであるし、肉は私には幼少の頃から食べ物でさえないのだから、食べようと努力しようという気持ちになるはずがないではないか」
私の質問が余程ゆりの心を乱してしまったようだった。
荒立った声、そして私を見る目は、軽く睨みを効かせているかのように見えた。
だがそれもつかの間で、ゆりは元の柔らかい女性の表情を取り戻してくれた。
肉嫌いが肉の場にいるなんて信じられないかもしれないけど、これも事実
ゆりが元の穏やかさを取り戻してくれた所で、私はずっと握りしめてきたある疑問を投げかけることにした。
「何故ここに?」
私がゆりに出逢ったこの場は、肉好きの為のイベントの会場であった。
会場内は当然のごとく、始終、出店店舗が調理した肉料理の臭いが漂っていた。
私の来場の目的は、肉好き女子を掴まえての取材であったのだが、ゆりに声を掛けることになったのは、ゆりが肉好き女子と疑ってやまなかったからだ。
はて、なぜゆりはゆりに相応しくないこの場に居るのであろうか。
訪ねてみることにした。
ゆり:「主人用ね、これを買いたいがゆえに来たまでの事で、それ以上の何でもないのある。」そう言いながら、ゆりは手に持っていた紙袋を開けて、中を見せてくれた。レトルトハンバーグ3つが入っている。
ゆり:「SNSで話題になっていたから、主人に買って行こうと来てみたのだ。」
肉食獣の彼は肉料理の中でもハンバーグが何よりも好きで、私はほら、肉嫌いであるから、日頃大したハンバーグを作ってあげられてないと思って気にして来た。
たまには美味しいのを食べさせないと、と思ってもいたのだ。税込みで一個880円もするけれど、常温で3カ月は持つ様にパックされているし、せっかくの機会であるから、とりあえず3つ買う事にした。
今後2週間に一度位のペースで食べさせてあげようと思っている。
私はこのように主人の肉好きを認めているし、主人も私の肉嫌いを認めてくれている。
でも世の中には、私がいくら肉嫌いと言っても信じてくれない人もいるのは事実である。信じられないであろうが、これも事実なのだ。
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